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京都・西陣 町家の勉強部屋

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言葉の力
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言葉が持つ秘められた世界をご覧ください

まど・みちおさんの「ぼくが ここに」という詩です。

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ぼくが ここに    作まど・みちお

ぼくが ここに いるとき

ほかの どんなものも ぼくに

かさなって ここに いることは できない

 

もしも ゾウが ここに

いるならば そのゾウだけ

マメが いるならば その一つぶの

マメだけしか ここに

いることは できない

 

ああ このちきゅうの

うえでは こんなに

だいじに まもられているのだ

どんなものが

どんなところに いるときにも

その「いること」こそが

なににもまして

すばらしいこととして

 

 

 

 

まど・みちおさんの「よかったなあ」という詩です。よかったら、読んでみませんか?

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「よかったな」     作まど・みちお

よかったなあ 木や草が ぼくらの まわりに いてくれて 目のさめる みどりの葉っぱ 美しいものの代表 花 かぐわしい実

よかったなあ 草や木が 何おく 何ちょう もっと数かぎりなく いてくれて どの ひとつひとつも みんな めいめいに違っていてくれて

よかったなあ 草や木が どんなところにも いてくれて 鳥や けものや 虫や 人 何が訪ねるのをでも そこで動かないで 待っていてくれて

ああ よかったなあ 草や木がいつも 雨に洗われ 風にみがかれ 太陽にかがやいて きらきらと

 

 

 

 

 

吉野弘さんの「素直な疑問符」という作品(詩)です。

小鳥[1]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直な疑問符」

小鳥に声をかけてみた

小鳥は不思議そうに首をかしげた

 

わからないから

わからないと 素直にかしげた

あれは 自然な、首のひねり

てらわない美しい疑問符のかたち。

 

時に 風の如く

耳もとで鳴る

意味不明な訪れに

素直にかしぐ、

小鳥の首でありたい。

 

吉野弘さんの「自分自身に」という作品(詩)です。

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自分自身に

他人を励ますことはできても

自分を励ますことは難しい

だから―――というべきか

しかし―――というべきか

自分がまだひらく花だと

思える間はそう思うがいい

すこしの気恥ずかしさに耐え

すこしの無理をしてでも

淡い賑やかさのなかに

自分を遊ばせておくがいい

吉野弘さんの「樹」という作品(詩)です。

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「樹」

人もまた、一本の樹ではなかろうか。

樹の自己主張が枝を張り出すように 人のそれも、

見えない枝を四方に張り出す。

 

身近な者同士、許し合えぬことが多いのは

枝と枝とが深く交差するからだ。

それとは知らず、いらだって身をよじり 互いに傷つき折れたりもする。

 

仕方のないことだ 枝を張らない自我なんて、ない。

しかも人は、生きるために歩き回る樹 互いに刃をまじえぬ筈がない。

枝の繁茂しすぎた山野の樹は

風の力を借りて梢を激しく打ち合わせ

密生した枝を払い落とす――と

庭師の語るのを聞いたことがある。

 

人は、どうなのだろう?

剪定鋏を私自身の内部に入れ、

小暗い自我を 刈りこんだ記憶は、

まだ、ないけれど。

吉野弘さんの「奈々子に」という作品(詩)です。

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奈々子に

赤い林檎の頬をして 眠っている

奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは そっくり

奈々子の頬にいってしまって

ひところのお母さんの つややかな頬は少し青ざめた

お父さんにも ちょっと 酸っぱい思いがふえた。

唐突だが

奈々子

お父さんは

お前に 多くを期待しないだろう。

ひとが ほかからの期待に応えようとして どんなに

自分を駄目にしてしまうか お父さんは

はっきり 知ってしまったから。

お父さんが お前にあげたいものは

健康と 自分を愛する心だ。

ひとが ひとでなくなるのは

自分を愛することをやめるときだ。

自分を愛することをやめるとき

ひとは 他人を愛することをやめ

世界を見失ってしまう。

自分があるとき

他人があり 世界がある。

お父さんにも

お母さんにも

酸っぱい苦労がふえた。

苦労は 今は お前にあげられない。

お前にあげたいものは

香りのよい健康と

かちとるにむずかしく

はぐくむにむずかしい

自分を愛する心だ。

吉野 弘さんの祝婚歌を読んでみませんか。

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祝婚歌  吉野 弘

二人が睦まじくいるためには

愚かでいるほうがいい

立派すぎないほうがいい

立派すぎることは

長持ちしないことだと

気付いているほうがいい

完璧をめざなないほうがいい

完璧なんて不自然なことだと

うそぶいているほうがいい

二人のうちどちらかが

ふざけているほうがいい

ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても

非難できる資格が自分にあったかどうか

あとで

疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは

少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは

相手を傷つけやすいものだと

気付いているほうがいい

立派でありたいとか

正しくありたいとかいう

無理な緊張には

色目を使わず

ゆったりゆたかに

光を浴びているほうがいい

健康で風にふかれながら

生きているなつかしさに

ふと胸が熱くなる

そんな日があってもいい

そして

なぜ胸が熱くなるのか

黙っていても

二人にはわかるのであってほしい

 

吉野弘さんのご冥福をお祈りいたします。